本書の初版の発刊が 2013 年 3 月でした。その後,4 月 19 日に「地域における保健師の保健活動指針」が改定されました。保健師の保健活動の基本的な方向性として 10 項目が提示され,その一番はじめの項目が「地域診断に基づく PDCA サイクルの実施」です。二番目の項目は,「個別課題から地域課題への視点」です。これらは,まさに,本書で示す展開図の要素です。保健師は日常業務の中で,地域の健康の問題を発見し,地域診断を行い地域保健活動の PDCA サイクルを回しています。その PDCA サイクルのプロセスは,個別の健康課題を地域全体の課題として束ねてみていく視点に基づいています。
本書は,保健師が毎日,あたりまえに見ていることや行っていることを PDCA サイクルに位置づけて,保健師活動指針に沿った意味づけを可能にするツールです。
また,この展開図は,PDCA サイクルを追うプロセスの中に,3 事例を包含しており,この点は他のツールにない特徴的な点であると気づきました。この 3 事例にしっかりと向き合うことができると,地域に必要なことが浮き彫りになってきますし,保健師の中に,「何とかしなければ」という活力が湧いてきます。その活力こそが,地域活動を展開する原動力であると,保健師現任教育に関わる中で実感いたしました。
発刊から本日までに,この本をお読みくださった皆様から,多くの感想や評価を頂きました。展開図を活用シートにアレンジして研修シートとして活用下さっている自治体や,保健師基礎教育において応用し活用して下さっている大学の実際もお聞きしております。
このような背景を踏まえて,この改訂版では,保健師活動の展開図を,PDCA サイクルとして明確に表示しました。また,初版では不明瞭であった部分について加筆修正をしました。そして,基礎教育における応用例をお示しするといった改訂を行いました。
見えづらいと言われる保健師活動の可視化を促す実践的なツールとして,また保健師活動を学ぶ学生の理解を助ける教育的ツールとして,本書をご活用頂けますと幸いです。
2019 年 1 月
守田孝恵
《目次》
改訂版の発刊にあたって
発刊にあたって
第1章 「PDCAの展開図」で示す保健師活動の理論と実践―「個」から「地域」へ広げる保健師活動―
Ⅰ.保健師活動の理論と実践
Ⅱ.PDCAの展開図
PDCAの展開図とは
PDCAサイクルを追う
保健師活動を意味づける
Ⅲ.保健師と対象の関係
「個」「集団」「地域」の関係
対象を理解しイメージを描く
契約の存在しない関係
対象との信頼関係構築の重み
対象の生活の場で展開する
対象を丁寧にみる
Ⅳ.個から地域へ広げる活動の手法
「個」の健康課題を「地域」の健康課題としてとらえる
疫学・保健統計学を手段として活用する
「地域の力」を見つけ「地域のあるべき姿」を描く
あるべき姿に向かって「地域が動く」瞬間がある
連携調整の連続
顔を見て関わる
協働を実現させるために気長に動く
努力して地域の人を知る
地域について教えてもらう姿勢
すべてが「人」と「人」の関係
地域診断資料に語らせる技の活用
保健師活動における連携
Ⅴ.保健師活動の展開
PDCAの展開図の活用
保健師の日常業務の位置
PDCAサイクルを回して地域を対象とした活動にする
保健師活動を図で捉える
保健師活動の展開プロセスはPDCA
サイクル
個から地域への変換地点は事例の束ね
Ⅵ.PDCAの展開図の解説
保健師活動をPDCAサイクルで説明するPDCAの展開図
1 実践(問題発見)
2 実態把握
3 地域診断
1.健康課題の明確化
1)保健師が捉えた地域の実態
2)事業実績
3)保健統計
2.地域の健康課題
4 活動計画(健康課題の対策)
5 実績
6 モニタリング
7 評価
PDCAの展開の各プロセス
1.実践(問題発見)
2.実態把握
Aさん・Bさん・Cさん
3.地域診断
日常業務で行う地域診断(健康課題の明確化)
保健師活動で直面する「ニーズ」と「デマンド」
地域診断を構成する3つの要素
1)保健師が捉えている地域の実態 2)事業実績 3)保健統計
4.活動計画
活動計画としての目的と目標
5.実践
6.モニタリング
7.評価
評価活動の作業について
8.PDCAの展開図の活用事例
Ⅶ.「個」から「地域」へ広げる活動の意味
1 「個」と「地域」の関係
2 公衆衛生とヘルスプロモーション
各論への橋わたし
第2章 具体的な活動事例から捉える保健師の「技」(技術)
1.個人・家族への「技」
2.小集団への「技」
3.組織への「技」
4.地域全体への「技」
保健師の「技」カテゴリー
第3章 家庭訪問―精神障害者の家庭訪問から生活支援事業への推進―PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
家庭訪問
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 精神障害者の食生活の質改善をはかる
①料理教室・交流会の開催
②総合福祉会館で週1回開催
2 障害者が安心できる居場所づくりを
すすめる
①給食ハウス実現に向けての意識を向上・開設準備
②運営ボランティア発掘・運営支援
③給食ハウスの継続・事業化への働きかけ
Ⅵ.評価
モニタリング
1 精神障害者の食生活の質が改善した
2 精神障害者の居場所ができ交流が広がった
第4章 健康教育―高齢者クラブへの出前講座から地域の認知症予防対策への展開―
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
健康教育
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
認知症予防講座を計画し実施した
1 認知症予防講座に向け話し合いを持つ
2 認知症予防講座の計画と準備
3 認知症予防講座を実施
①テーマ「認知症を予防する生活のポイント」
②テーマ「認知症を予防する食事」
③テーマ「認知症を予防する運動」
モニタリング
Ⅵ.評価
1 認知症を予防する方法を知る機会が増えた
2 健康で自立した生活が維持できるよう,
自分に合った方法を実践できるようになった
3 認知症を予防する地域の活動が増えている
第5章 健康教育―生活習慣病予防教室から地域の健康づくり計画参画への展開―
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
健康教育
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 公民館との話し合い
2 メタボ予防教室の実施
3 教室終了後の自主活動に向けての話し合い
4 げんき会の活動を地域に向けて発信
モニタリング
Ⅵ.評価
1 教室参加者がげんき会を結成し自主活動を行うことができた
2 住民が仲間とともに活動を継続し効果を実感できた
3 公民館主事がメタボ予防教室の企画運営を行った
4 げんき会が地区で開催したウォーキング講習会に住民が参加した
5 げんき会が健康づくり計画推進委員会のウォーキングマップ作成に参加した
第6章 健康相談―精神通院医療申請窓口の対応から精神障害者の地域生活支援への展開―
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
健康相談
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 精神障害者が集える場づくり
2 精神障害者の自己効力感を上げる支援
3 精神保健福祉相談会開催
4 ハートの会に住民ボランティア活用
5 精神障害者を支えるボランティア育成
6 精神保健ボランティアの会設立に向けての支援
7 ハートの会をピースの会が主体で運営できるよう支援
モニタリング
Ⅵ.評価
1 精神障害者が気楽に相談し集える場としてハートの会ができた
2 精神障害者が安心して生活できるサービスを利用できるようになった
3 精神障害者や家族が精神障害を受容し行動できるようになった
4 精神障害者,家族,住民が集える場ができた
5 精神障害者や家族にやさしい地域づくりの理解者がふえた
第7章 健康相談―特定疾患患者の相談から地域の健康危機管理体制への展開
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
健康相談
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 特定疾患医療受給者証申請窓口で用いる「災害時の備えチェックリスト」を作成
2 障害福祉担当と連携し,個別支援計画を作成
3 地域の自主防災組織の強化
モニタリング
Ⅵ.評価
1 本人や家族が特定疾患医療受給者証申請時に,年に一度,災害時の備えのチェックができるようになった
2 保健師が個別支援計画の必要な患者について,障害福祉担当者と連携し支援計画を立てることができるようになった
3 Bさんが避難訓練に参加し,その様子をD市の民生委員協議会で報告し,他の地区でも避難訓練を見直すきっかけとなった
第8章 健康診査―3歳児健診から障害児の生活しやすい地域づくりへの展開―
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
健康診査
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 障害児を持つ家族が相談できる仲間づくりの場の開催
2 仲間づくりから自主グループへの提案
3 「ひまわり会」発足への支援
4 「ひまわり会」の原動力を引き出す
5 「ひまわり会」の活動を地域住民へPR
モニタリング
Ⅵ.評価
1 障害児を持つ家族が相談し合える仲間ができた
2 障害児を持つ家族が安心して利用できるサービスができた
3 障害児を持つ家族が障害を力に変えて行動することができた
4 障害児を持つ家族のグループ「ひまわり会」が結成され主体的な活動ができた
5 地域の中に障害児(者)や家族の理解者が増え安心して暮らせるようになった
第9章 グループ育成―病院保健師の病室訪問からNICUママ友づくりへの展開―
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
グループ育成
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 周産期センターの情報誌の発行
2 保健師の活動拠点である保健室の環境整備
3 NICUの展示コーナーの整備
4 母親の交流会を開始
5 周産期センターと自主グループの交流会を開催
6 地域関係機関との連携
モニタリング
Ⅵ.評価
1 母親が不安を解消し,ママ友ができる場として,病棟の交流会が充実してきた
2 自主グループとの交流会が定着してきた
3 子育てグループのネットワークが広がった
4 病院と地域の連携が充実してきた
第10章 グループ育成・地域組織への支援―将来構想会議の発言から健康づくり推進グループ結成への展開
PDCAの展開図
地域の概況及び保健事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
グループ育成・地区組織への支援
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 第1回定例会議
2 第2回定例会議
3 第3回定例会議
4 第4回定例会議
5 第5回定例会議
6 第6回定例会議
7 第7回定例会議
8 第8回定例会議
9 第9回定例会議
モニタリング
Ⅵ.評価
1 Y町に主体的な健康づくり推進グループ(名称:Y町健康応援隊)ができた
2 健康づくり推進グループのメンバー(以下メンバー)が,Y町の健康課題を把握することができた
3 メンバーが,地域の健康課題解決に向けた活動方針を設定することができた
4 メンバーが,主体的に健康づくり活動を企画・実施・評価することができた
5 メンバーが,自らの生活習慣病を予防することができた
6 メンバーが,Y町の保健計画策定のプロセスに関与できるようになった
7 地域住民が活動に参画することで保健行動をとるようになった
8 行政や関係機関と協働することで健康づくり推進グループが継続・発展した
第11章 地区組織への支援―保健推進員がかかわる健康相談から高齢者の健康・生きがいづくりへの展開
PDCAの展開図
地域の概況及び保健推進員の活動の背景
Ⅰ.実践
地区組織への支援
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例から見えた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画
目的
目標
Ⅴ.実践
1 地区懇談会で保健推進員活動の一環として取り組むことを承認
2 F会の見学と交流
3 保健推進員による活動計画立案への支援
4 「ことぶき会」の開催
5 保健師と保健推進員による「ことぶき会」の共有と検討
6 「ことぶき会」の活動発表
7 「ことぶき会」の引き継ぎと活動報告
モニタリング
Ⅵ.評価
1 高齢者が仲間づくりや楽しみを見出し健康や生きがいづくりができた
2 高齢者が自身の役割を再認識し主体的な行動ができた
3 保健推進員が高齢者への支援を通して地域の健康課題を主体的に解決した
4 保健推進員が主体的にいきいき活動できた
5 地域住民が保健推進員と協働し高齢者を地域ぐるみで支え合う仕組みができた
6 S地区の保健推進員の活動が他地域へも波及した
第12章 連携・調整―介護支援専門員との連絡から地域の介護支援ネットワーク構築への展開―
PDCAの展開図
地域の概況および事業の背景
Ⅰ.実践(問題発見)
連携・調整
Ⅱ.実態把握
Aさん Bさん Cさん
事例からみえた保健師の見立て
Ⅲ.地域診断
保健師が捉えた地域の実態
事業実績
保健統計
明確になった地域の健康課題
Ⅳ.活動計画(健康課題の対策)
目的
目標
Ⅴ.実践
1 介護支援専門員が情報交換できる場づくり
2 3町の保健師が地域の課題を共通認識
3 介護支援専門員の会設立
4 さくらの会設立支援
5 介護保険講演会開催
6 さくらの会自立への準備
7 さくらの会自立への援助
8 保健・医療・福祉・介護のネットワークづくり
9 介護保険サービスマップ作成の支援
10 さくらの会自立への支援
モニタリング
Ⅵ.評価
1 介護支援専門員は仕事の相談ができる仲間や場ができた
2 介護支援専門員は自信を持ってサービス提供できるようになった
3 介護支援専門員がそれぞれ持っている力を生かして仕事ができるようになった
4 介護支援専門員を含めた地域の保健・医療・福祉・介護のネットワークができた
5 介護支援専門員が質の高いサービスを住民に提供できた
6 介護支援専門員が介護保険について住民の理解を深める普及啓発を実施できた
7 新たな社会資源であるさくらの会ができた
資料 保健師基礎教育における「PDCAの展開図」の活用
健康教育演習配布資料1(健康教育の目的・目標・方法)
健康教育演習配布資料2(健康教育演習10テーマ)
健康教育計画書作成例①
健康教育計画書作成例②
健康教育計画書作成例③
健康教育演習 1演習の目的 2学習目標 3グループ演習の方法
改訂版参考図書
参考図書
索引
感謝の意をこめて
表紙デザイン 針谷由子
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