1997年オランダで始まった認知症カフェは、2009年にはイギリスの認知症国家戦略として位置づけられるほどに発展した。認知症カフェを認知症の人が集う場として広くとらえると、日本では1980年発足した「呆け老人をかかえる家族の会(後の「認知症の人と家族の会」)が先駆的であったと言える。2000年からは、介護保険制度も無い中でそれぞれの思いから
立ち上がった有志が認知症カフェの開設・運営に力を注いだ時代であると言われている。2012年6月厚生労働省はオレンジプランを策定し、その中で認知症カフェは「認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが参加でき集う場」と定義され、普及が掲げられた。2013年3月には老人保健推進事業推進費等補助金により行われた「認知症カフェのあり方と運営に関する調査研究事業」報告書が開示され、日本の実態の概要が明らかにされた。2013年10月に発表された著名な「京都方式オレンジプラン」策定に影響を与えたと思われるオレンジカフェ今出川が開始されたのは2012年9月であり、京都認知症カフェ連絡会が結成されたのは2014年である。
2015年1月新オレンジプランが発表され,その中の7本柱の一つ「認知症の人の介護者への支援」の項で「認知症カフェは2018年度から全ての市町村に配置される認知症地域支援推進員等の企画により,地域の実情により実施」と示された。筆者らは,これを受けて2015年2月「コミュニティカフェひだまり」と称した認知症カフェを浜松市で開始し,10月には浜松市の助成を受けるに至り,さらに色々なタイプを試行錯誤し,認知症カフェのあるべき姿を追及してきた。現在,市町村では,認知症カフェを企画・実施する準備が本格化している。日本の認知症カフェの現状を概観すると、企画者や実践者の思いでそれぞれ実施されているようで、羅針盤がない船が漕ぎ出されようとしていて心配である。日本における認知症カフェのミッションは日本固有であるべきである。すなわち、日本固有の医療保険制度、介護保険制度、地域包括ケアシステム、平成29年4月の介護保険制度の改定により始まった介護予防・日常生活支援総合事業(以下,新総合事業と言う)、地域の社会福祉協議会活動や自治会活動・民生委員活動、認知症の家族の会の活動などを踏まえて、日本固有のあるべき姿を模索すべきだと考えている。上述した先人の挑戦や日本固有の仕組みや感覚を掘り下げ、認知症カフェを試行錯誤した経験に基づき、これから認知症カフェの創設を考えている方へ、道標を示すことが本参考書の目的である。
本書を纏めてみて、まだまだ認知症カフェの在るべき姿を明確に指し示すほどには至っていないことが判明したが、ここで示した思索方法は是非参考にして頂きたいと思っている。
2019年4月
「はじめに」より 志村孚城
《目次》
は じ め に
第Ⅰ章
「コミュニティカフェひだまり」・「認知症カフェさんさん」
1 認知症カフェの実体験 (志村 孚城)
2 浜松市平成27年度認知症カフェモデル検証事業 (奥山惠理子)
1 「コミュニティカフェひだまり」の概要
2 「コミュニティカフェひだまり」の検証の目的
3 「コミュニティカフェひだまり」への参加のきっかけ
4 「コミュニティカフェひだまり」の参加目的
5 認知症に関する相談事例A
─アルツハイマー型認知症とされたが治療中断、介護保険未申請のA氏─
6 認知症に関する相談事例B
─ピック病と診断されたが,認知症とは思わなかったBさんの娘さん─
7 認知症に関する相談事例C
─家族は認知症とは気が付かず,異食行動で専門医受診─
8 検証事業の総括
3 浜松市平成28年度認知症カフェモデル検証事業 (高柳佳世子)
1 「認知症カフェさんさん」の概要
2 「認知症カフェさんさん」の検証の目的
3 「認知症カフェさんさん」の参加のきっかけ
4 「認知症カフェさんさん」の来店者数と来店者年代
5 「認知症カフェさんさん」の来店の目的
6 認知症に関する個別相談の成果
7 イベントメニューの評価
「シネマサロン」
「ふれあいコンサート」
「お料理教室」
8 「認知症カフェさんさん」モデル検証事業の総括
第Ⅱ章
日本の風土に合った認知症カフェ
1 認知症カフェの守備範囲 (志村 孚城)
1 認知症の進行と認知症カフェの役割り
2 認知症のケアパスから見た認知症カフェの役割り
3 自治体の提供する公的サービスと認知症カフェの役割り
4 認知症カフェの守備範囲
2 段階別の対象者の特徴とニーズ・対応 (志村 孚城)
1 A(健常・PCD)グループの特徴とニーズ・対応
2 B(MCI)グループの特徴とニーズ・対応
3 C(軽中等度認知症)グループの特徴とニーズ・対応
4 D(重度認知症)グループの特徴とニーズ・対応
第Ⅲ章
想定質問にお答えします
1 認知症カフェの地域交流メニュー参加者が個別相談に繋がるか (志村 孚城)
2 認知症の方も交えた家族の交流会(B),介護家族同士の情報交換会(C)の必要性 (奥山惠理子)
3 個別相談の待ち受けかたについて (高柳佳世子)
4 認知症サポーター養成講座の必要性 (奥山惠理子)
5 目玉となるメニューについて (志村 孚城)
第Ⅳ章
新しい認知症カフェ
1 出前認知症カフェ (志村 孚城)
2 大学病院で開催した認知症カフェ (鈴木みずえ・内藤 智義・古田 良江)
第Ⅴ章
ま と め
1 試行したカフェメニューの分析
2 総 括
新しい認知症カフェについての考察
付 録
認知症カフェの調査研究から見えること
1 認知症カフェのあり方と運営に関する調査研究事業報告書
①認知症の人と家族が集う場の発展型
②認知症または高齢者の専門施設発展型
③自治体のモデル事業型
④地域住民が集う場の発展型
⑤既存形態にとらわれない個人の実践発展型
2 認知症カフェの実態に関する調査研究事業報告書
1 研究事業の背景
2 わが国の認知症カフェの共通概念
3 調査結果の概要
ⅰ)認知症カフェの年間設置件数の推移
ⅱ)認知症カフェの開設場所
ⅲ)運営主体と運営方法
ⅳ)参加費等
ⅴ)開催頻度・開催時間
ⅵ)認知症カフェの参加者・事前申し込み
ⅶ)運営スタッフ
ⅷ)認知症カフェで行われているプログラム
ⅸ)認知症カフェの運営・開設にかかる費用
ⅹ)地域支援推進員との関わり
4 認知症カフェの運営上の課題
あ と が き
《編 集》 志村 孚城(株式会社創生?代表取締役)
《執 筆》
志村 孚城
奥山惠理子(株式会社浜松人間科学研究所?代表取締役)
高柳佳世子(株式会社創生?事業本部)
鈴木みずえ(浜松医科大学?臨床看護学講座?老年看護学)
内藤 智義(浜松医科大学?臨床看護学講座?老年看護学)
古田 良江(浜松医科大学?臨床看護学講座?老年看護学)
《定価》本体 2000円+税 ISBN 978-4-904363-77-5
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