著者らは,在宅看護に関する科目を教授する上で,在宅看護過程あるいはアセスメントに関する参考図書が未だ少ないこと,市内の同じ訪問看護ステーションへ複数の看護系教育機関が実習しているが,使用している看護過程記録の様式も内容も様々である,という現状を把握しました。
そこから,看護過程の図書が1冊あるととても便利であり活用したいという話に発展しました。初めは,各大学によって記録様式も記録内容も異なり,ディスカッションのなかでは看護過程の要素である看護目標,期待される成果,看護計画など使用する用語と概念については意見が分かれる部分もあり,果たして一つにまとまるのかと危惧することもありました。しかし,最終的には在宅における看護過程を展開する上での療養者及び家族の生活を視る,捉える,理解しようとする根底となる価値観,基本的な考え方は同じではないかという結論へ至りました。その結果が本書となります。本書でのアセスメント枠組みや用語の用い方など未だ発展途上であると考えますが,今まで自分たちが教授してきたことを先ず形にしました。ぜひ,教育の場,訪問看護の実践の場でご活用いただき,皆様のご意見をいただけると幸いです。
この本の著者らは,本書のコンセプトに賛同いただいた在宅の看護教育に携わっている方々です。講義から演習,実習,実践をとおして,初学者が活用しやすいものを目指して作成しました。以上,初版の理念を引き継ぎ,本書は,改訂版となります。
初版に取り組み始めたのは2014年の7月でした。2015年3月に発刊され,それから4年が経過しました。その間,看護教育のカリキュラム改正,国家試験出題基準の改定,地域包括ケアの推進等,社会の動向や法改正がみられることも鑑み,本書の内容を全面的に見直すとともに,事例については小児の事例を加え,充実させました。また,この4年間のなかで,著者らは,「訪問時に利用者を対象としたアセスメントツール開発を目指して-在宅看護分野における必須アセスメント指標の開発-」(公益社団法人在宅医療助成勇美記念財団2015年度後期一般公募)というテーマで研究にも取り組みました。研究成果の一つとして,健康課題の特定を示す統合図について作成しました。今回,全ての事例に追記しています。アセスメントツールについて公表後,大学院での研究に取り組む際に活用したい,看護基礎教育で学生に活用したい,との連絡もいただいております。最近,アセスメントを含め在宅看護過程については益々,関心が高まってきているのではないかと感じています。さらに,著者らは新人訪問看護師を育成するプロジェクトにも取り組み始めています。在宅看護の分野は今後,さまざまな面において研究も教育も発展していかなければいけない分野です。その中でやはり看護の核となるアセスメントの部分について,今後も研究を継続し,洗練させていきたいと考えています。
○本書の特徴
在宅看護における看護過程の基礎的知識,看護過程の展開をわかりやすく章立てして示しています。看護過程の展開ではアセスメントから実施・評価まで順に示しており,その後に訪問時の行動計画・行動評価の章が独立していることも特徴です。訪問時の行動計画・行動評価の章は,初学者あるいは経験が少ない方には必要な内容と思われますので,是非ご活用ください。
アセスメントについては在宅看護領域の特徴をふまえてアセスメントとは何か,アセスメントの枠組み,アセスメントの項目と視点について説明し,表を用いてポイントを示しています。
全体を通して,各章の学習のねらい,各章のポイントを示しています。また,例示や図表を用い,文章もなるべく平易な言葉,表現を用いており,
とにかく読みやすくわかりやすくということを心がけました。
○本書の活用方法
第1〜第6章までは看護過程の理論編です。各章で独立しているため,どの章から読み始めても,各章で理解できる内容となっております。
第7章は看護過程展開の事例編です。訪問看護の実践の場でよく担当するであろうと思う事例を例示しました。各事例を参考にしていただき,
それぞれの個別性に沿って応用していただければと考えます。事例によって若干,書き方が異なっております.その点については,なるべくその章を担当した著者の方に吹き出しや注意書きを入れて,工夫した意図,内容を書いていただきました。
本書「はじめに」より
2019年3月 編者 by YUUTO
《目次》
第1章 在宅看護における看護過程
Ⅰ 在宅看護とは
1 在宅とは
2 在宅ケア
3 在宅看護
4 在宅看護の対象と特徴
Ⅱ 在宅看護過程の概念
1 在宅の看護過程とは
2 看護過程の構成要素
Ⅲ 在宅看護過程の展開
1 展開の特徴
2 看護過程展開のための能力
第2章 在宅看護過程の展開─アセスメント
Ⅰ 在宅看護過程のアセスメント
1 アセスメントとは何か
2 情報の収集・分析・解釈・判断
3 アセスメントの目的
4 アセスメントの視点
Ⅱ 様々なアセスメント枠組み
1 オレムの普遍的なセルフケアの要件(要素)
2 機能別の健康パターン(ゴードン)
3 ICF
Ⅲ 家族のアセスメント
1 家族のアセスメントとは何か
2 家族のアセスメントの枠組み
Ⅳ アセスメントのための情報収集の項目と視点
1 アセスメントの留意点
2 枠組みのとらえかた
3 項目別のアセスメントポイント
表 在宅看護におけるアセスメントのための情報収集の項目と視点
第3章 アセスメント─統合
Ⅰ 健康課題と統合
1 統合とは
2 全体像とは
3 健康課題とは何か
Ⅱ 統合のポイント
1 情報関連図を用いる
2 健康課題となる情報の特定
3 見える化シートを用いる
4 健康課題の優先順位の基準
第4章 看護計画
Ⅰ 在宅看護計画の位置づけ
Ⅱ 看護目標の設定
1 長期目標
2 短期目標
3 期待される成果
Ⅲ 家庭訪問での援助計画の立案
1 援助内容を挙げる視点
2 家族を一つの単位とした看護計画
第5章 実施・評価
Ⅰ 看護実施のプロセス
1 看護計画とPDCA
Ⅱ 在宅看護の実施
1 在宅看護の特性をふまえた実施
2 在宅看護の記録・報告
Ⅲ 在宅看護の評価
1 短期的視点と長期的視点
2 評価を行う上での留意点
3 評価の活用
第6章 訪問時の行動計画・訪問時の行動評価
Ⅰ 訪問時の行動計画
1 行動計画はなぜ必要か
2 訪問時の行動計画
Ⅱ 訪問の行動評価
1 行動評価とは
2 評価の視点
表 訪問時の行動計画と行動評価(例)
第7章
1 アルツハイマー型認知症のある事例
2 脳梗塞後遺症による左半身不全麻痺の事例
3 医療的ケアを必要とする小児の事例
4 医療依存度が高い末期がんの事例
5 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の事例
6 統合失調症と2型糖尿病のある事例
7 仙骨部および右踵部に褥瘡のある事例
定価 3000円+税 ISBN 9784- 904363-79-9
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