『障がい論―文化に即したケア』を読ませていただいた時、今まで私たちが感じていた医療現場での不安がなぜ起こるのか、一つ一つの疑問がきれいに解消されました。そして、この本を1人でも多くの医療従事者やその関係者が手にとることで、私たち障がいを持つ患者のクオリティライフが激変するのでは、と大きな希望に変わりました。障がい者の世界を文化として捉えて、それを医療のケアの現場にしっかりと落とし込み、具体的かつわかりやすく書かれている本は、おそらく初めてではないでしょうか?この本は、私たちが私たちの身を守るためにも必要なものです。耳が聞こえない以前に私たちは1人の患者生活者なのです。
早瀨憲太郎 巻頭言より
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私の妻は薬剤師です。そして私と同じ耳が聞こえません。ある日交通事故に遭ってしまい、妻の働く病院に1週間ほど入院をしました。通院でも大変なのに、入院なんて気が遠くなりそうでしたが、最初の診察で医師の横に手話通訳者が立っていたのにびっくりしました。こちらが頼んだわけではなく、手話を必要とする耳が聞こえない患者ということで、病院の手話通訳ができる職員が立ち会うシステムができているとのことでした。
その医師は、手話通訳がいても私の目をじっと見つめながら、自分の言っていることが確実に私に伝わっているかどうか、確認をしながら丁寧に診察をしてくれました。
さらに、処方される薬については妻が薬剤師として手話で説明をしてくれました。コミュニケーションになんの不安も抱かずに診察を受けられる喜びと、手話でしっかりと自分が飲む薬の内容がわかる感動で、怪我の痛みなど吹き飛んでしまいました。
「薬剤師さんって、こんなことをいつも言っているんだ!」と目から鱗がたくさんこぼれました。これなら安心して薬を飲むことができます。
病院にろう者の医療従事者がいることで、耳が聞えないことの理解が医師や看護師に浸透して行きやすいということを実感しました。
本来コミュニケーションとは対等です。手話通訳も筆談も、聞こえない人とのためだけではなく、お互いのための手段です。しかし聞こえない人のために筆談をしてあげる、という感じを漂わせてしまう医療従事者も少なくないのが実情です。私たちにとってこの「してもらう感」は、耳が聞こえないことで迷惑をかけてしまうのではという気持ちになり、病院に苦手意識を持ってしまうことに繋がりやすいです。
医師や看護師が自分の職務を全うし、インフォームドコンセントをしっかり行うにためには、自分たちにとっても手話通訳や筆談は必要だ、という認識が大切だと思います。
結局、私の入院中は、こちらが何も言わなくても看護師もごく自然に筆談で対応してくれました。こうして私は耳の聞こえない患者としてではなく、一般的な患者として入院生活を満喫することができました。これは患者としてあるべき環境ですし、当たり前のことです。この感動を私だけでなく、全ての耳の聞こえない人たちに味わってほしいと思います。そのためにはろう者の医療従事者が増えるだけでなく、私たち自身が何度も病院に足を運び、対等なコミュニケーションを築いていくことが大切です。
《目次》
第4章 改めて障がい者の文化と,それを尊重したケアとは
《編集》
丸谷 美紀
《執筆》(執筆順)
阪東 美智子
田野 ルミ
早瀬 久美
佐久間 勇人
袖山 真喜子
以上
定価 本体2,800円+税
ISBN978-4-904363-91-1
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