この本の主役は、子どもたちです
中央アフリカ共和国で活動を始めてから今年で20年目になりました。
もう、こんなに永い歳月が流れたのかと感慨深く思っています。
中央アフリカ共和国で活動を始めた頃は、毎日寝る前にその日に関わった患者さんを思い出し、彼らのことを書き綴っていました。
エイズ患者さん一人一人が数字で片付けられるのではなく、彼らが生きた証やその生き様から学んだことなどを患者日記として残そうと思ったからです。しかし、患者さんは日増しに増えてゆき、患者さんの名前を覚えられなくなり記憶も混同し記録にかかる時間が長くなり、時には睡魔に襲われ記録が途切れがちになりました。
エイズ患者の支援を始めてから、5年目には一年間の新しい患者登録数が千名を超えるようになり、私は患者さんのケアに翻弄される毎日で、患者日記は白紙になってしまいました。
しかし、多くのエイズ患者さんを看取りながら、私は一行でもいいから彼らのことを記憶に留めておきたいと思い考えたのが5・7・5の17文字でした。
患者さんの記憶として、俳句の素人が17文字を並べただけであり季語などの知識もなく俳句というより短詩というべきでしょう。
しかし、その17文字を読むと今でもその時の患者さんの様子や情景がまざまざと瞼に浮かんできます。ソファやベッドに寝ころびながら患者さんのことを思い浮かべ両手を広げ指を折って5文字、7文字を探して作った17文字です。
詩ごときものを書くようになったのも思いつきからです。思い出した短い文章を小さなノートに書き留めていました。ゆくゆくはそれをエッセイにまとめたいと思っていましたが、いざ文章を書き始めるとその労力に疲弊し、詩ごときものにしてしまいました。
しかし、私が公表して多くの人々に見てもらいたかったのは写真です。
活動を始めてこの20年間に撮った写真が数千枚になりました。素人が、ただぱちぱちとシャッターを押しただけの写真ですが、子どもたちの表情はすばらしいです。
子どもの笑顔、悲しそうな表情、真剣なまなざしなど写真一枚一枚に彼らの物語があります。その物語を読み取っていただけたらと願っています。
この本の主役は子どもたちです。 (序 『俳句に寄せて』より)
中央アフリカ共和国での活動20年を振り返ると、まず内乱のことが苦い思い出として脳裏に浮かびます。
1996年から2003年間に実に7回の内乱があり、外国人はこの国を去り、失業者は増え、経済は疲弊しました。しかし、そんな中でも、人々は笑顔を絶やさず、女性たちはたくましく生き続け、子どもたちは破れて汚れた洋服を着て元気にはしゃいでいました。私は、そんな人々の生きざまにただカメラのシャッターを押し続けました。
記録に残すためではなく、せがまれて撮った写真が多くあります。彼らは写真が大好きです。親から子どもの写真を撮ってくれとせがまれ、おしゃれな服を着た女性から写真を撮ってくれとせがまれる。こんな具合で写真が増えました。写真を大きくプリントして渡すと、穴があくほど写真を眺めるのです。そのなんとも言えない幸せそうな顔を見るのがさらに嬉しくて写真を撮りました。
彼らにとって写真は宝物です。
エイズ患者さんの家庭に診察に行くと、どの家でも泥壁に写真が飾ってあります。でっぷりと太って高級な民族衣装をまとって堂々とした女性の写真が飾られている。「これは、私なのよ」やせ細りゴザに横たわるエイズ患者が指さします。「大統領夫人かと思ったわ」と言うと、彼女も恥らうように笑います。彼女は、写真を誇りとしているのがよく解かります。写真は生きた証です。だから、私は彼らのために写真を撮り続けてきたような気がします。
この本には、主に子どもたちの写真を選びました。
子どもは、天使だといわれます。本当にそうだと思います。子どものあどけない表情や笑顔は、私たちを幸せにしてくれます。
私は、これからもデジタルカメラのシャッターを押し続けてゆきます。
(本書『おわりに』より)
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発行 2012年4月
著者 徳永 端子
定価 1,575円(税込み)
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