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筆者は1982年4月、県の保健所からN町衛生課へ赴任した。
課には関係の資料はほとんど整理されてなかった。
まず始めに取り組んだのは、この町にどれだけの保健福祉医療対策が必要なのかを調べることだった。
法的根拠と町の人口動態に合わせた保健衛生計画書を作成し、関係機関や役場内の関係者に理解を求めた。
多くを無視されながら保健師2名事務職3名の課員で事業を始めた。
行政職員が住民の生活と命を守る姿勢を確立することを筆者は期待した。
担当課の姿勢の変化は他課との調整や連携となり、連携は在宅ケアシステム形成への端緒となった。
事業の拡大を揺り動かしたものは、住民の声であり、アルマ─アタ宣言・オタワ憲章の理念であり、老人保健法のヘルス事業など法的根拠であった。
「介護される者も介護する者も、みんな幸せになりたい」の思いから真剣に学びあい、在宅ケアシステムをつくり続けた。
その17年の記録をまとめた。
首長が代わりコーディネーターも代わり、介護保険も開始し、行政が退いていくのを目の当たりにしたことが、まとめる必要性を突きつけてきた。
「いつも気をつけてくれてなぁ」
「なにかのときは側に居てくれてーなぁ」
「断酒始めるかぁ」
「家でお義母さん介護してみようかなぁ」
そんな声がいま保健センターで聞こえているかと、問いたい。
介護保険の隙間は行政の保健活動専門職によって埋められねばならないと考える。
本書終章より
目次
序 問題提起の所在
Ⅰ 在宅ケアと保健師の役割
1.在宅ケアとは
2.資料を収集する
3.町の人口動態
4.町の高齢者対策と人生各期における保健・福祉対策
5.保健活動が住民から離れていくとき
6.町の福祉活動の推移
7.町の高齢者意識調査
Ⅱ 実践からみた在宅ケアシステム形成
1.機能訓練を核とした保健福祉の実践
2.家庭訪問の充実
3.健康教育・健康相談と地域組織との連携
4.健診事業を支えた福祉と地域住民との連携
5.毎日配食サービス事業
6.過疎地域Aにおける高齢者支援体制
Ⅲ 在宅ケアシステム形成の要因と課題
1.住民の組織育成
2.保健福祉医療の連携
3.行政保健師の役割と課題
終章